統計的工程管理

統計的工程管理(statistical process control)

 

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1. 統計的工程管理とは

統計的工程管理とは、製造工程において製品の品質保証及び、工程の管理・改善のために各製造工程が持つデータを統計的に処理して管理する方法のことをいいます。英語ではSPC(Statistical Process Control)といいます。
管理図については別の所で述べますが、工程管理のあり方が、シューハートの管理図を使う前と後で、大きく変化したことを述べました。
管理図が普及する以前の工程管理は、全ての製造工程が完了してから完成した製品を検査して、不適合があるものを取り除いて、適合品だけを出荷する方法でした。
そこで、アメリカ人のシューハート博士が考案した管理図が導入されました。管理図による管理は、それぞれの製造工程で得られたデータを測定・監視することにより、最終段階で不適合品が出ないようにする方法です。具体的には、製造工程でさまざまなデータを取得し、それを統計学的に処理することで、工程異常を防ぎます。
そうすることにより、製造にかかる工数が大幅に削減できるため製造工程が効率化します。さらに、最終検査で不適合品を取り除くのではなく、不適合品の発生を未然に防ぐことで、適合品を選別するために発生するムダな費用を削減できるのも特徴です。

管理図の他に、製造工程が、規格を満足する製品を安定してつくり続けることが出来る能力があるかどうかを、判断するために工程能力指数(Cpk)を用います。工程能力指数はその数値が大きいほど、品質が安定しているといえます。

統計的工程管理は、管理図と工程能力指数とを組み合わせて、製造工程を改善・維持する手法です。

 

2. 工程改善のための戦略

統計的工程管理について、具体的にはどの様に考えていけばよいでしょうか。
JIS Z9021-2:2016「シューハート管理図」に箇条9「工程管理、工程能力及び工程改善」に具体的な統計的工程管理の手順が示されています(図1)。これに基づいて説明していきましょう。
ただ、図については、少し見やすい様に書き換えていることを御了承ください。

図1 工程改善のための戦略

2.1 管理図による統計的管理状態の実現

工程を管理するためには、工程を統計的な管理状態におく必要があります。
製品製作の立ち上がりや、製造工法の変化など、初期流動管理状態にあるとき、通常は突き止められる原因による工程変動(異常原因によるばらつき)と、突き止めることが出来ない原因による工程変動(偶然原因によるばらつき)とが混在している状態です。
このときに管理図手法(例えば \( \bar{ X } – R \) 管理図)を用いて、過大な変動(ばらつき)を生む突き止められる原因を見つけて、体系的に除去して、突き止められない変動だけが残った、統計的管理状態に工程を導きます。

2.2. 工程能力による評価

工程能力は、偶然原因によるばらつきにより決まります。工程能力は、工程が統計的管理状態で流動しているときに正しい値が得られます。つまり、工程能力による評価は、解析用管理図により管理上の問題がすべて解決した後、少なくとも25の群に対して統計的管理状態を維持していることを管理用管理図で確認した後に、はじめることができます。通常、工程の出力である品質特性と製品規格とを比較して、製品規格に合致しているかを確認します。

工程能力は、通常、工程能力指数CpおよびCpkにより評価します。
工程能力指数の研修でも述べましたが、Cpは単に許容限界と工程のばらつきの関係を示しているだけで、工程平均の位置は考慮していません。Cp値が大きくても、製品規格外に品質特性値が出る可能性があります。従って、通常は、工程平均と工程平均に近い方の製品規格限界との距離を考慮したCpkで評価します。
工程能力指数で用いる標準偏差sは、通常、先に示した管理用管理図で工程維持を確認したデータについて求めます。
工程能力の過不足の評価は、工程能力指数の研修で述べた数値で評価します。すなわち、
Cpk<1であれば、工程能力が不足していることを示します。
Cpk=1は、かろうじて工程能力を維持しているレベルであることを示します。
一般的には、Cpk=1.33(4シグマ)のとき、許容できる最小値になります。なぜかというと、ある程度のサンプリング変動は常に存在し、いかなる場合でも完全に統計的管理状態にあるといえる工程は、
ほとんど存在しないからです。

(1)工程能力がない場合(Cpk < 1)
マネジメントのレベルで、以下の様な取組を検討します。
 ・工程を改善する。
 ・製品の製造を停止する。
 ・この状態を容認して、全数検査を行う。
 ・製品仕様(規格)を変更する。

緊急的には、まず製品の製造を一旦停止します。工程を改善したり、ポカヨケ装置を追加したり、改善に時間がかかり、しかも製品の出荷を止めることができない、やむを得ない場合には、次善の策として全数検査で対応する場合もあります。ただ、早急に工程改善を行わなければなりません。
ドンナに対策しても、改善できない場合は、最後の手段になりますが、製品仕様・規格の変更を検討しなければならない場合も発生するかと思います。
しかし、本来は工程変更によるものでない場合、解析用管理図で十分問題点の潰し込みが出来ていなかったことが問題の可能性が大きいです。

(2)工程能力がある場合(Cpk > 1)
 ・工程センタリングの検査(工程平均を検討)
  上限規格に対するCpkUと、下限規格に対するCpkL との差が大きければ、工程平均をずらせないか検討するとともに、管理図による監視を継続します。
 ・工程改善を試みる
  Cpk>1.33 になるように、工程改善を試みます

2.3 管理図による日常管理

Cpk>1.33 の状態を日常管理により維持するため、管理図(\( \bar{ X } – R \) 管理図)による評価を継続します。

一般的には、2.1から2.3までを、変化点が発生した時あるいは、定期的に繰返すことにより、工程の統計的管理状態を維持するようにします。

 

3.IATF16949コアツールとしてのSPC(御参考)

統計的工程管理は、IATF16949(自動車向けのセクター規格)のコアツールとして取り上げられています。IATF16949では、工程能力指数の標準偏差の取り方及び要求値を、初期流動管理時と、工程維持時とで変えることにより、初期流動状態での工程能力をより厳しく要求しています。
ただ、QC検定で示される工程能力指数の定義では、IATF16949では、初期流動管理時に要求される工程性能指数と同じ不偏標準偏差を用いて計算しています。従って、従来から自動車関係以外の日本のものづくりでは、IATF16949とほぼ同等の工程管理を実施していると考えられます(一部、個人的な見解も入っていますが)。
特に、自動車関係のマネジメントシステムにこだわらないのであれば、JIS Z9020-2:2016に基づく、工程管理を維持することが大切であると考えます。

参考文献
JIS Z9020-2:2016 シューハート管理図
品質管理の演習問題と解説 QC検定試験2級-3級対応   日本規格協会

引用図表
図1 工程改善のための戦略   JIS Z9020-2:2016「シューハート管理図」箇条9「工程管理、工程能力及び工程改善」を改変

ORG: 2023/03/12