管理図の考え方、使い方

管理図の考え方、使い方
(How to think about and use control charts)
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目次
1. 管理図のはじまり
管理図は、アメリカの物理学者・技術者・統計学者のシューハート博士(Dr. W. R. Shewhart)により考案されました。シューハート博士は、電気会社のウェスタン・エレクトリック社に配属されて検査部門に在籍していた、1924年に管理図の考え方を提示しました。現在われわれが使用している管理図の基本的な概念は、このとき全て彼により考案されたといいます。
それまでの工業製品の作り方は、完成品を検査して不具合があるものを取り除くという方法で、品質を保っていました。この状態を、管理図を適用する事により製造工程を統計的な管理状態に置いてそれを維持する事により、大幅に品質の向上と維持が図られるようになりました。
シューハート博士自身が作成した管理図といわれるものを図1 に示します。
図1 シューハート博士が作成したレポートに記載された管理図
第二次世界大戦後、日本に品質管理を普及させたデミング博士(Dr. W. E. Deming)は、早い時期からシューハート博士の管理図に興味を持ち、共同研究者として第二次世界大戦中のアメリカの軍需物資の生産性の改善に取組んでいました。
第二次世界大戦後、デミング博士は来日して、日本の企業に品質管理の概念を教育しましたが、その中でもシューハートの管理図は、品質管理の重要なツールとして、日本でも広く普及する事になりました。世界中で品質管理の概念が進展してきた大元は、このシューハート博士が考案した管理図かも知れません。
管理図はQC検定に出るというだけではなく、皆様がものづくりをするうえでばらつきが少ない製品をどうやって作るのか、どうやって品質を維持するのかを実践する為の非常に重要なツールです。
2. 管理図とは
2.1 ばらつきの種類
ものづくりの現場では、同じ製品を製作する場合でも、出来上がった製品の品質特性値(品質を示す性質、例えば寸法や、質量、成分、寿命など)はわずかに変動します。この変動がある状態を「ばらつきがある」といいます。
品質特性値にばらつきがあることは、ものづくりの工程にばらつきを生じる原因があるといえます。このばらつきの原因は以下の2つに分類することができます。
(1)偶然原因(common cause)によるばらつき
同じ手順で、同じ製品を製作する場合でも、その品質特性値はばらつきがあります。原材料や作業方法を標準に基づいて同じ条件に設定してもばらつきが生じます。このばらつきをなくすことはできません。やむを得ないばらつきです。
これを偶然誤差によるばらつきといいます。
(2)異常原因(special cause)によるばらつき
製作工程に通常とは異なることが発生した場合に起こる、見逃せないばらつきです。例えば、標準作業通りできていない、設備が正常に作動していないなどが原因となって発生するばらつきです。
このばらつきは無くす必要があります。
2.2 工程管理
工程を管理するということは、異常原因によるばらつきを無くして、偶然原因によるばらつきのみの状態にすることです。管理図はそのためのツールです。
管理図を正しく運用すると、今起こっているばらつきが偶然原因によるものか、異常原因で起こっているものかを判断することができます。ばらつきが異常原因によるものと判断されたら、速やかにその原因を発見して取り除く必要があります。
2.3 管理図とは
管理図とはどういうものかを定義しましょう。管理図とは、工程の過去の状況を物指しとして、現状の状態がいつもと同じ程度のばらつきの範囲内(安定状態)にあるか、あるいはその範囲を超えていつもとは違う状態(異常状態)かを、客観的に判断する管理のためのツールです。
ここでいう安定状態は、偶然原因によるばらつきのみによる変動状態を意味します。
ものづくりに従事する者のとって大切なことは、高い品質水準の製品を作るとともに、その品質を安定した状態に保つことです。いつも同じ安定した製品を作り続けることが出来ている状態のことを、「工程が安定した状態にある」といい、技術的、経済的にも検討された好ましい水準で安定した状態に管理されていることをいいます。
例えば、ある作業において、いつも同じ安定した品質の製品をつくり続けるためにはどの様にしたらよいでしょうか。
それにはまず、安定した品質をつくり込むのに必要な正しい方法で作業を行う必要があります。このような条件(製造条件)は、通常「作業標準」という形で示されており、それに従って作業を行います。これは、その作業を行うのに最良の方法として決められたものです。作業標準通りに作業を行えば、その時点で最も好ましい安定した品質の製品が得られるはずです。作業が作業標準に定めたとおりに行われるように管理することを「条件の管理」といいます。
しかし、いつも同じ安定した品質の製品をつくり続けるためには、条件の管理を行うだけでは不十分です。その作業の結果である製品の品質が、期待される結果が得られているかどうかを、定期的に測定して確認することが必要です。この製品の品質を測定して確認することを、「結果による管理」といいます。
好ましいレベルの品質を持つ製品を安定してつくり続けるという目的は、この「条件の管理」と「結果による管理」の両方を行うことにより初めて実現することが出来ます。
「結果による管理」を行うためには、その製品の品質を表す特性値を測定して、その値が常に同じであるかどうかを判断する必要があります。ところが特性値は必ずばらつきを持っています。そのばらつきのある値を見て、その値がいつもと同じ(安定な状態)と考えらえる程度のばらつきの範囲内にあるのか、あるいはその範囲を超えていて、いつもとは違う状態であると考えなければならない値なのかを判断しなければなりません。そのための判断の基準を我々に与えてくれる手法の一つが管理図です。
管理図のタイプにはいくつか種類があります。
①工程(プロセス)の統計的管理状態評価用管理図
②累積和管理図
③工程(プロセス)の合否判定用管理図
④工程(プロセス)の調節用管理図
これらの内、わたしたちのものづくりの場面でもっともよく用いられる①の「プロセス(工程)が統計的管理状態にあるかどうかを評価するための管理図」である、シューハート管理図(JIS Z9020-2:2016)をこれから見ていきましょう。QC検定の出題範囲は、1級から3級までの全ての級で、シューハート管理図に限られます。
2.4 シューハート管理図
シューハート管理図は,計量値データまたは計数値データから得た、統計的尺度の値を表示するためのグラフです。ここで、統計的尺度というのは、統計的な計算により求められる統計量を指します。管理図は、ほぼ規則的な間隔で工程からサンプリングされたデータを用いて作成します。このサンプリングされたデータのかたまりを群といいます。
この間隔は,時間(例えば1時間ごと)あるいは数量(例えばロットごと)によって決めます。
通常、データは、同じ測定可能な単位で同じ群の大きさ(サンプルサイズ)を持つ同じ工程の特性、製品またはサービスで構成されたサンプルまたは群から得ます。各群からは、一つあるいは複数の群の特性、例えば群の平均値\( X \) および、群の範囲 \( R \)、標準偏差 \( s \) のような計量値の特性や、与えられた分類に属するデータの比率などの計数値の特性を求めることができます。
シューハート管理図は、一般的な言葉で言えば、群番号の順にプロット(打点)した群の特性値の折れ線グラフです。管理図を統計的管理状態にあるかどうかの判断のために作成した場合、対象となる工程の過去の状況から求められた特性値に基づいて、平均値を示す中心線(CL:center line)の両側に管理限界を示す一対の線が上下対称に引かれます(図1 )。上側の線を上部管理限界または上方管理限界\( (UCL)\)といいます。また、下側の線は下部管理限界または下方管理限界\((LCL)\)といいます。通常、中心線は実線で、管理限界線は破線で示されます。
これら管理限界線はそれぞれ、平均値を表す中心線の両側に、特性値の標準偏差の3倍の幅をとって引かれます。このことから、3シグマ法管理図と呼ばれることもあります。管理限界をこのように設定すると、統計上はプロットした値の約99.7%が、これら上部・下部管理限界幅の内側に入ります。また、プロットした値の推移をわかりやすくするために、1シグマ、2シグマについても細線や点線で記入することが多いです。
図2 \( \bar{ X } \)管理図,\( R \) 管理図 、
この図に、管理図が対象とする品質特性の測定結果をプロットしていきます。これらの点が管理限界線の内側にあるか外側に出てしまっているかで、製造工程が良好な状態であるか否かを判定します。
工程が安定していれば、偶然原因によるばらつきだけであるので、プロットされた点は管理限界線の内側に入っています。もし工程に異常が生じたら、プロットされた点は管理限界線の外側に出てしまうか、点の並び方に特徴的な並びが認められます。
図1 では、\( \bar{ X } \) 管理図で11日のところの点が、\( R \) 管理図では23日のところの点が管理限界線の外側に出ています。これらは工程に異常があったことを示しています。直ちにその原因を調査して対策する必要があります。
2.5 シューハート管理図を用いる際の注意
管理図を用いて、工程の状況を評価する場合、2種類の誤りが起こり得ます。
(1)第1種の誤り
第1種の誤りは、対象とする工程が実際には管理状態にあるにもかかわらず、プロットした点(打点)が偶然に管理限界の外に落ちるときに起こります。その結果として、管理図は工程が管理外れを起こしたとの誤った結論をもたらすことになります。言葉を変えると、偶然原因によるばらつきが異常原因によるばらつきと誤って判断される場合です。この第1種の誤りのことを「あわてものの誤り」ということがあります。存在しない問題の原因を追究するコストが発生してしまいます。
(2)第2種の誤り
第2種の誤りは、対象とする工程が実際には管理外れなのに、プロットした点(打点)が偶然に管理限界内に落ちるときに起こります。この場合は、管理図には何も異常は示されず、工程は管理状態にあると誤った判断をしてしまうことになります。結果として、工程平均あるいはばらつきにおける変化が発生したことを検出できないことによる、コストが発生したり、不適合品を生産してしまうことがあります。言葉を変えると、異常原因によるばらつきが偶然原因によるばらつきと誤って判断される場合です。この第2種の誤りを「ぼんやりものの誤り」ということがあります。
第2種の誤りの確率は、管理限界幅及び、群の大きさ、工程の管理外れの程度の3つの要素の関数になります。一般に、工程における変化の大きさは知ることができません。
通常、第2種の誤りについてはリスク及びコストに対して意味のある推定はできないので、シューハート管理図は第1種の誤りを管理するように設計されています。
データが正規分布していると仮定すると、3シグマ限界も用いた場合、第1種の誤りが発生する確率は0.3%です。言い換えると、第1種の誤りは工程が管理状態にあっても、1000個のサンプルに対してほぼ3回発生することになります。
3. 管理図の種類
シューハート管理図には、基本的に計量値管理図と計数値管理図の2つのタイプがあります。
また、工程管理において何を管理するか、管理対象を決める必要があります。
表3 に、データの種別と管理対象により対応する代表的な管理図を示します。
また、図4にデータの種類により適用される管理図のタイプを示します。
表3 管理図の主な種類 出典:不明
図4 データの種類により適用される管理図のタイプ 参考:JIS Z9020
3.1 計量値管理図
長さや質量、時間、硬さなどの特性は、連続的に変化するデータとして得られます。これらのデータは計量値(variable)といいます。
QC検定の出題レベル表では、計量値管理図として、\( \bar{ X } – R \)管理図 および、\( \bar{ X } – s \)管理図、\( X – R_{ s } \)管理図、\( M_{ e } \)管理図 が示されています。
これらの概要を示すと、
(1)\( \bar{ X } \)管理図 :工程を品質特性値の平均値によって管理するときに用いる管理図。
(2)\( X \)管理図 :工程を個々のデータ(測定値)によって管理するときに用いる管理図。
(3)\( M_{ e } \)管理図:工程を品質特性値のメディアンによって管理するときに用いる管理図。
(4)\( R \)管理図:工程のばらつきを、範囲R(群内の最大値と最小値との差)によって管理するときに
用いる管理図。
(5)\( s \)管理図:工程のばらつきを、標準偏差sによって管理するときに用いる管理図。サンプル数が
10以上で使われます。
(6)\( R_{ s } \)管理図:工程のばらつきを、移動範囲(一つ目の観測値と二つ目の観測値との差の絶対値)に
よって管理するときに御用いる管理図。
となります。
これらのうち、よく使われるのは平均値(\( \bar{ X } \))と範囲(\( R \))とを組み合わせた、\( \bar{ X } – R \)管理図 です。このほか、測定できるデータ数が少ない場合は個々のデータ(\( X \) )とその移動範囲(\( R_{ s } \))との組み合わせによる\( X – R_{ s } \)管理図 がよく使われます。
3.2 計数値の管理図
不良個数や欠点数、不適合率などのように、測定値が不連続(離散的といいます)な値を計数値(attribute)といいます。
QC検定の出題レベル表では、計数値管理図として)\( np \)管理図 および、\( p \)管理図、\( c \)管理図 、\( u \)管理図が挙げられています。
これらの概要を示すと、
(1)\( np \)管理図 :工程を不適合品数(不良個数)\( np \)によって管理するときに用いる管理図。不適合品が存在しているサンプルの大きさ\( n \)が等しくなければ適用できません。
(2)\( p \)管理図 :工程を不適合品率(不良率)pによって管理するときに用いる管理図。なお、不適合品率に限らず、合格率や一級品率など割合を表すものであれば、\( p \)管理図 を用いることができます。
(3)\( c \)管理図 :工程を不適合数(欠点数)\( c \)によって管理するときに用いる管理図。不適合数を調べるときの単位体の大きさや量が等しくなければ使用できません。
(4)\( u \)管理図 :工程を単位当たりの不適合数\( u \)によって管理するときに用いる管理図。欠点数を調べるときの単位体の大きさや量が等しくない場合、単位当たりの欠点数に変換した数値を用いて管理図を作成します。
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参考文献
QC検定2級品質管理の手法 内田治 日科技連
よくわかる2級QC検定合格テキスト 福井清輔 弘文社
品質管理の基礎実務 武田正一郎 技術評論社
すぐに使えるQC手法 片山善三郎他 日科技連
現場QC読本 管理図の作り方 川瀬卓他 日科技連
JIS Z9020-2:2016 シューハート管理図
図表
図1 シューハート博士が作成したレポートに記載された管理図 https://deming.org/the-first-control-chart/
図2 \( \bar{ X } 管理図,R_{ s } 管理図 \)
表3 管理図の主な種類
図4 データの種類により適用される管理図のタイプ
ORG:2025/02/01