5. DRとトラブル予測,FMEA,FTA

5. DRとトラブル予測,FMEA,FTA(DR and trouble prediction, FMEA, FTA)

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DRとトラブル予測,FMEA,FTA

DR(Design Review):デザインレビュー
製品開発は、通常「製品企画 ⇒ 基本設計 ⇒ 試作 ⇒ 詳細設計 ⇒ 量産試作 ⇒ 量産」のプロセスを経ますが、各ポイントごとに関連する部門が集まって、製品企画の達成度や、要求仕様、信頼性、品質達成度など満たすべき項目について、それぞれの視点から評価して、基準を超えていることを確認してから次のステップに進む方法です。評価すべき項目が多岐にわたるため、さまざまな部門の協力や、資料の準備などの事前準備が必要になります。日本語では設計審査といわれます。

FMEA(Failure Mode and Effect Analysis):故障モード影響解析
FMEAは、製品設計や工程設計に適用できます。設計部品や工程の要素作業レベルでの、使用中に起こり得る潜在的な全ての故障モードを網羅して、それぞれの故障が上位の構成品、サブシステム、より上位のシステム、最終的には製品や工程に及ぼす影響を検討して、各故障モードを格付けしたり、信頼性上の弱点を示して、適切な対策案を検討して、故障の未然防止をはかるものです。
部品などの下位アイテムの故障が上位アイテムにどのようにあらわれるかを遡及して、最終システム(製品)の機能に対する影響を見る、ボトムアップ手法です。

FTA(Fault Tree Analysis):故障の木解析
FTAは、重大な故障や事故をトップ事象として、その原因となりうる事象を木の枝が枝分かれするように展開して、ある現象(故障)についてどのような経路で発生するのか、考えられる発生原因やその確率を予測する手法です。ツリーの枝分かれ部分(節)には論理記号(論理ゲート:ANDゲート,ORゲートなど)を用いることにより、原因間の関係が容易に理解できます。
故障や事故などのトップ事象が発生する要因は何かを、上位レベルから下位レベルに解析を進めて追及するトップダウン手法です。

これらは、何れも信頼性手法の代表的なもので、トラブルになる要因を事前に予測して対応するために用いられます。

 

 

1. デザインレビュー(DR:Design Review)

1.1デザインレビューとは

一般的に、製品開発プロセスは次の順序で構成されています。
1. 企画
2. 基本設計
3. 試作‧評価
4. 詳細設計
5. 量産試作‧評価
6. 量産

それぞれの段階での整合性を維持しながら、製品開発プロセスを進めるためには、「次工程でする必要があることは何か」「どのようなスケジュールで進めるべきか」などを、関係者が共有する必要があります。
次の段階へ、正しく情報を伝えなければ、製品開発プロセスは有効に機能しません。企画段階で、製品仕様などの要件が決定していなければ、次の段階の基本設計はできません。また、生産量やスケジュールなどを決定する生産計画が決まっていなければ、量産段階に入ることは出来ません。
製品開発プロセスに一貫性を持たせるため、決定内容を開発プロジェクト内の資料に落とし込み、関係者が共有できる情報とします。

このように各段階で、成し遂げられた成果物を、関係者が審議して、次の段階に進んでも良いかを判定する取組みをデザインレビューといいます。デザインレビューは、信頼性管理技術の一手法となります。もちろん、ISO9001においても、要求事項の一つです。

1.2デザインレビューの効果

一般に、デザインレビューの効果としては、
1. 信頼性の保証
2. 製造原価の低減
3. 補用品の低減
4. 開発スケジュールの短縮
5. 開発資料の文書化

などがあげられます。それぞれ、もう少し詳しく見ていきましょう。

1. 信頼性の保証
経験が浅いエンジニアは、上級エンジニアや上位の職制などの指示に基づいて設計を進めることになります。CAEなどコンピュータにより自動的に設計が進められる部分も大きいですが、機器の選定や材料・部品の選定、安全係数の取り方など、過去の設計と今回設計する製品との差異を検討しながら開発を進める必要があります。
過去の失敗事例について、まとめている企業も多くありますが、蓄積がうまくできていない場合、同じような失敗を繰り返す恐れがあります。
設計を効率化し、失敗を未然に防止するために、設計対象に応じた、出来るだけ詳細なチェックリストを作成して、デザインレビューを実施することにより、専門家のレビュー、指摘により、「漏れ」のない製品設計が可能になります。また、製品の信頼性も向上します。

2. 製造原価の低減
デザインレビューの場には、各部門の責任者や、経験者・専門家が出席するので、品質や機能について徹底的な検討を加えて、要求性能について解析して、既存の概念を打破することにより原価低減を行う事が可能になります。
例えば、アルミニウム合金や銅合金などの高価な金属から、鋼やプラスチックに材質を変更したり、過剰な加工精度を適正化したり、熱間鍛造品を冷間鍛造品に変更して、ニアネットシェイプ化して加工工数の低減をはかったり、新規にモジュールを設計するのではなく、既存のモジュールを流用するなど、いろいろなパターンが考えられます。
一人の設計者に任せるのではなく、いろいろな分野の経験者・専門家の意見を、上手に取りまとめることにより、より大きな原価低減を目指せることが多くあります。

3. 補用品の低減
詳細設計のデザインレビューにおいて、信頼度が予測されると、システムや機器の故障率やMTBFが明確になり、補用品をどの程度準備しておくべきかを予測することができます。
型式が異なっても、共通にできる部品やモジュールはなるべく共通化して、補用品の品種や種類を可能な限り減らすのが望ましいです。
詳細設計のデザインレビュー時に、レビュー項目として補用品の低減を加えておけば、効果的です。

4. 開発スケジュールの短縮
新規に開発して機器・製品の納入日が定められているのに、開発日程を検討すると期限内に製造するのが難しいと判断される場合もあるかと思います。
このような場合には、基本設計及び詳細設計時のデザインレビューの際に、以下のような取組みを検討することにより、開発スケジュールの短縮をはかることができる場合があります。
① 新規開発予定の部品やモジュールを、可能な限り既に開発済のものに置き換える。
② 納期が長い、素形材や特殊材料については、基本設計完了後に手配する。
③ 納期が長い特殊な部品について、一般の規格部品に置き換える。
④ 認定試験や、特殊な環境試験に必要な部品については、基本設計完了後に手配する。
⑤ 鍛造品や鋳造品を、板金・溶接構造に変更する。
⑥ 特殊材料の使用を止めて、JIS規格材料を使用する。
⑦ 特殊な設備が必要な加工は極力排除して、既存の設備で加工できる設計とする。

基本設計段階では①~④、詳細設計段階では⑤~⑦の検討を行って、設計内容をまとめて、それぞれの段階のデザインレビューで、十分なレビューを行えば、開発スケジュールを短縮する効果が大きいです。

5. 開発資料の文書化
設計結果のアウトプットが、部品表や図面のみという極端な例はあまりないが、設計関係の資料が文書で残されていない場合が多いです。
例えば、設計担当者や管理者が移動すると、多くの資料やノウハウが個人のノートや頭脳とともに、他課や他部に移ってしまうことも多いです。数年間にわたって前に所属していた部・課から質問を受ける場合もあるし、開発が完了したにもかかわらず、開発設計者に維持管理させている企業もあります。
デザインレビュー実施の際に、十分なドキュメント資料を準備し、デザインレビューでの結論に基づいてアクションが行われて、初めて効果が上がることになります。アクションが伴わない場合、デザインレビューは意味にないものになってしまいます。

デザインレビューは、実施したとの自己満足で終わらせずに、デザインレビューで指摘された改善事項を組織的に実行して、さらにフォローすることが重要です。

1.3デザインレビューの実施手順

一般的には、デザインレビューは以下の手順で行われます。
1. デザインレビュー実施スケジュールの決定
2. ドキュメントの作成
3. デザインレビュー事務局の設置と委員長の選任
4. デザインレビューの開催案内を配布
5. デザインレビューでの討議内容についての議事録作成
6. デザインレビュー実施後のフォローアップ

以下、もう少し詳しく見ていきましょう。

1. デザインレビュー実施スケジュールの決定
デザインレビューの実施スケジュールを、開発品ごとにあらかじめ立案しておき、設計担当者及び事前に選定された各部門のデザインレビュー出席予定者に事務局からスケジュールを連絡しておく必要があります。
デザインレビューのスケジュールは、各段階での設計の完成予定期日を順守させるために役立ちます。往々にして遅れがちとなる設計図面の出図納期を守らせる役割を果たします。

デザインレビューは、開発プロセスに従い、構想設計、試作設計、最終設計、及び生産設計の各段階(マイルストーン)で実施するように計画しておく必要があります。開発テーマごとに年間のデザインレビュースケジュールを立案して、関係部署で共有化しておくことが望ましいです。

2. ドキュメントの作成
設計文書の作成は設計者にとって必須ですが、非常に大きな負担になります。デザインレビューが開催されるまでに、必要なドキュメント資料を準備する必要があります。ドキュメント資料は、デザインレビューの実施段階及び、審査の目的、対象に応じて、漏れが無い様に準備しておくのが、審査を有効に運営するポイントになります。

3. デザインレビュー事務局の設置と委員長の選任
デザインレビューを、適切に効率的に運用するために、DR事務局を設置します。DR事務局では、デザインレビューの開催や、記録、事務的諸業務のまとめを行います。通常は、技術管理部門の担当者が選任されます。
さらに、デザインレビューの実施段階や、審査の目的、内容に応じた運営ができるように、適切なDR委員長を選任しておかなければなりません。デザインレビューの際に、審査員の間で意見が分かれる場合が生じますが、そのような場合は、DR委員長の指示に従って意見をまとめることになります。従って、DR委員長は、技術(管理)部門もしくは品質管理(保証)部門のマネージャー以上が望ましいと言えます。

4. デザインレビューの開催案内を配布
デザインレビュー開催の案内は、開催日の一週間前までには、実施内容と目的を明確にして、審査員に事務局から行います。その際は、原則としてデザインレビューで使用するドキュメント(資料)も添付します。
審査員は、事前にドキュメント(資料)を精査して、設計・開発内容を十分に把握したうえで、デザインレビューに出席しなければなりません。特に、ドキュメント(資料)の内容について、疑問点や意見があれば、デザインレビュー開催日までに、指摘表(票)などにより、指摘事項をDR事務局又は設計担当者に送付しておくようにしておかなければなりません。
このようにすることにより、デザインレビュー当日の審議を効率よく実施することができます。

5. デザインレビューでの討議内容についての議事録作成
デザインレビューが終了すれば、DR事務局は直ちに議事録(記録表)を作成して、関連部署の責任者に報告します。
改善提案や検討事項が提案された場合は、その理由、検討期日、担当部署を明確にしておく必要があります。

6. デザインレビュー実施後のフォローアップ
デザインレビュー実施記録に基づいて、以降のフォローアップを適切に実施することが重要です。フォローアップが不完全になってしまうと、以降のデザインレビューが形式化してしまい、その成果が得られないことになります。

これらをまとめると、図1のような実施フロー(例)になります。


図1 デザインレビュー実施フロー(例)

 

1.4デザインレビューの運営

デザインレビューを円滑に行うためには、以下に示す注意が必要です。

1. デザインレビューのために会議室の確保
デザインレビューが円滑に実施されるように、会議室の確保や、プロジェクタ、場合によってはマイク等の準備を事前に行う必要があります。

2. DR委員長の指示に従って運営する。
デザインレビューの審議において、審査員の意見がわかれることがあります。このような場合には、DR委員長は適正な判断を下して、各審査員を納得させる必要があります。
デザインレビューを設計者の能力判定の場としたり、設計内容にケチをつける場とならないように、運営していかなければなりません。さもなければ、設計者が原設計に固執したり、議論が堂々巡りしていたずらに時間を無駄にすることになりかねません。また、技術検討が十分に行われず、議論のための議論の繰返しに終始することになりかねません。
最終的には、DR委員長が決済をすることになりますので、DR委員長は、事前にドキュメント(資料)をよく読み込んで、内容を十分把握してレビューに臨まなければなりません。
些末なことですが、DR委員長はデザインレビュー中に電話や来客で席を離れることは、絶対に避けなければなりません。デザインレビューの進行は、DR委員長の指示に従って適切に行われることが大切です。

3. デザインレビューは途中に適当な休憩を取り、リフレッシュすること。
デザインレビューは真剣勝負の場ですので、長時間の緊張状態を続けるのは非常に難しいです。議論の切りの良いところで休憩をはさむのが良いかと考えます。休憩なしで長時間レビューを続けると、議論が中だるみしたり、集中できない人も出てきて、建設的な結果が得られない場合があります。
また、指摘事項についての議論が長びいたり、設計変更提案が次々提出されて、スケジュールが大幅に遅れた場合には、DR委員長は適切な時間に、その日のデザインレビューの打切りを決めて、残りについては日を改めて、適当な日に引き続き実施するように指示しなければなりません。
審査員の判断力が落ちた状態でのデザインレビューはよい結果を残せません。

4. 要処置事項と処置確認責任者
デザインレビューの結果で処置が必要な事項については、処置完了期限と処置確認の責任者を決めておく必要があります。
この処置確認のことを、フォローアップといいます。追究管理というタームで言われることもあります。

5. 記録
デザインレビューの進行中、記録係は1項目のレビューが終了するたびに、
① 新しい指摘事項
② 要処置事項とその処置期限、確認責任者
を確認して、記録する必要があります。
また、デザインレビューが終了すると、直ちに議事録(DR記録表)を作成・配布することが必要です。議事録作成を翌日以降に持ち越したり、チェックリストを議事録の代用とするのでは、良好な結果は得らえないと考えるべきです。

6. デザインレビュー実施回数とレビュー時間
製品の複雑さにより、一概には言えないので、それぞれの製品の持つ特質、設計の新規さの程度を勘案して、デザインレビュー実施回数と時間を決めることが望ましいです。

 

2. FMEAとFTA

2.1 FMEA,FTAとは

FMEA,FTAとも、信頼性予測手法の代表的なものです。どちらも本来は製品設計の信頼性向上のためにアメリカ(USA)で考えられた手法ですが、FMEAについては、自動車業界を中心に製品設計のみならず、製造工程、システム監視についても適用範囲が広がっています。

(1)FMEA(Failure Mode and Effects Analysis)
日本語では、故障モード影響解析と呼ばれています。FMEAは、設計や、工程計画の段階で、品質問題や事故を事前に予測しておき、その原因にあらかじめ対策を施すことにより、予測した問題の発生を防止することを目的にしています。
製品設計を対象として実施する設計FMEA(D-FMEA)、製造工程を対象に実施する工程FMEA(P-FMEA)が、自動車業界を中心にCore toolとして求められています。2019年には新たに監視・システム応答についてのFMEAも求められるようになりました。
本コンテンツは、QC検定対策のためのコンテンツであることを考慮して、従来からある一般的なFMEAの実施手順の説明を行います。一般的な手順は、設計部品や工程での要素作業レベルで、全ての故障モードとエラーを取り上げて、その原因が上位のシステムに与える影響及び対策を解析していく手法です。

(2)FTA(Fault Tree Analysis)
日本語では故障の木解析と呼ばれます。FTAは、品質や信頼性、安全性などの観点から、好ましくない事象を取り上げてトップ事象とし、この事象の原因を論理記号を用いて樹形図の形式に展開して、好ましくない事象の発生原因を探索する手法です。

2.2 FMEAとFTAとの相補関係

一般的には、最初にFMEAを用いて、下位の故障モードからさかのぼって上位システムへ及ぼす影響を検討し、次にFTAで、各故障モードが発生する原因を追究する順序がよいといわれています。
しかし、実際のところFMEAを設計の初期の段階で実施することは事実上困難で、特に製造が実施する工程FMEAは製品の仕様が定まっていない状態で実施するのは、かなり難しいと考えられます。むしろ、製品開発、特に企画段階でシステム構成品の評価としてFTAを実施して、見つけられた懸念点を、設計や、評価、製造、品質管理などに反映させて、詳細設計の段階で設計FMEAを行い、さらに製造工程の設計や、設備設計の場面でFMEAを行うことで、問題点の事前潰し込みが可能になります。

FMEAとFTAとの特徴を一言でいうと、FMEAがボトムアップ手法、FTAがトップダウン手法ということです。実施する際は、階層化を行います。図2は、FMEAとFTAが評価する事象と評価する方向についての模式図です。


図2 FMEAとFTAとの相補関係

また、表3にFMEAとFTAのそれぞれの特徴を示します。

表3 FMEA,FTAの特徴

2.3 FMEA
2.3.1設計FMEAと工程FMEA

自動車関係のセクター規格であるIATF16949では、製品の安全上の障害や製品欠陥などの不具合を事前に防止するために実施される設計段階でのFMEA(D-FMEA)と、製造工程における問題発生を未然に防止するために実施される工程FMEA(P-FMEA)が要求事項になっています。先に述べたように、2019年には新たに監視・システム応答についてのFMEAも求められるようになりました。これについては、別の機会に詳しく述べたいと思います。

(1)設計FMEA(D-FMEA;Design FMEA)
設計FMEAは、製品設計段階で用いられます。製品を構成する部品・ユニット毎に故障モードを挙げ、これらの故障モードが製品に及ぼす影響を予想することにより、潜在的な事故・故障を設計段階で予測・抽出します。さらにこれら故障モードに対して故障が発生する確率、発生した場合の影響の大きさ及び、発生の見つけにくさなどを評価・採点して、ランク付けを行い点数が高くなる故障モードについては、対策を施して重大な事故・故障を予防します。
ランク付けについては、評価が難しい、またどの点数から対策するのかが不明確などの問題があります。2019年に全米自動車工業会とドイツ自動車工業会との連名で新しいFMEAの考え方が発表され、リスク優先からアクション優先に対策実施の指針が変更されました(これは工程FMEAも同様です)。これについては、別の機会に詳しく述べたいと思います。今回はQC検定対策として記述を進めたいと考えます。

(2)工程FMWA(P-FMEA;Process FMEA)
工程FMEAは、作業及び管理のプロセス要素に着目して行うFMEAです。製造工程における故障発生の原因・仕組みを設計段階で追求し、工程の改善を行うために主として工程管理部門により作成されます。
設計FMEAと異なるところは、まず、準備するものが、QC工程図・作業手順書・設備仕様書など、工程の理解に必要な書類になること、また、故障モードの抽出の視点が製品そのものでなく、製品を製造するための要素(4M、5M+Iなど)を考慮しなければならないことです。例えば、人の作業を必要とする工程では、ヒューマンエラーについても考慮する必要があります。
工程FMEAにおける「故障モード」とは、製品FMEAの場合と同様に「システムの破壊形式」、すなわち、工程設計で決めたことに違反することになります。従って工程設計の基本であるQC工程図等に対する逸脱を故障モードとします。
この違反が導く影響、頻度、潜在性を評価する点で、製品FMEAと変わりありませんが、唯一異なる点は、潜在性の判断期間です。製品FMEAでは設計管理中に欠陥を見つけることの困難ですが、工程FMEAでは工程を実施している間も検知期間に含まれます。
なお。工程FMEAは、問題発生の兆候を事前に取り除く「未然防止」の取組みとしても、重要視されています。

2.3.2 FMEAの実施手順

設計FMEA、工程FMEAに共通する実施手順を示します。

手順1:プロセスのレビュー 手順2:潜在的故障モードについて、ブレインストーミングを行う。
手順3:各故障モードの潜在的影響を記述する。
手順4:各影響の厳しさ(S;Severity)の評価を行う。
手順5:各故障モードの発生頻度(O;Occurrence)の評価を行う。
手順6:各故障モード及び/または影響の検出可能性(D;Detection)の評価を行う。
手順7:各影響のリスク優先度(RPN = S×O×D)を算定する。
    新しい自動車規格では、S>O>Dの順でリスクの優先度を決定するように変更
手順8:処置を講じるための故障モードの優先順位付け
手順9:リスクの高い故障モードを解消または減少するために処置を講じる。
手順10:故障モードが解消または減少された場合のリスク優先度を算定し直す。

2.3.3工程FMEAの実施手順

工程FMEAでも実施手順はほぼ同じですが、もう少し具体的に示します。手順1から手順3について以下のように具体的になります。

手順1:工程と工程機能の確認
工程FMEAを実施する工程を明確にして、QC工程図などから工程機能を確認します。
手順2:発生が予想される故障モードの抽出
FMEAを実施する工程で発生が予想される故障モードとその要因を抽出します。
手順3:故障モードによる影響を明確化
工程で発生する故障モードによる影響が、「製造工程」、それが組み込まれる「製品」、及び最終の「顧客」にどのような影響を与えるかを明確にします。

手順4以降は、前項(4.2)と同じです。

図4 に工程FMEAの事例を示します。


図4 工程FMEAの事例

2.4 FTA
2.4.1 FTAの実施手順

一般的なFTAの実施手順について示します。

手順1:システムの解析
    FTA解析を行うシステムや機器の構成・機能を十分に理解する。
手順2:トップ事象の選定
    システムや機器の望ましくない事象をトップ事象に決定する。
手順3:一次要因の検討
    トップ事象の発生する原因となる一次要因について検討して、考えらえる要因をすべて列挙する。
手順4:論理記号による展開
    一次要因とトップ事象との因果関係を調べて、論理記号を用いて接続する。
手順5:要因の展開を繰り広げる
    一次要因をさらに細かいレベルに順次展開していき、もうこれ以上分解できない構成品レベルまたは部品レベルまで展開する。
手順6:FT図の作成
    展開した結果をFTA記号で結びつけて、FT図を作成する。
手順7:改善対策の検討
    各要因の上位レベルへの影響の厳しさを評価して、効果的な改善案を検討してまとめる。

更に、定量的な評価を行う場合は、各要因の発生確率の計算や致命度を計算して、トップ事象の発生確率を計算します。

2.4.2 FTAに用いる主な記号

FTAに用いられる主な記号は事象記号と論理記号とに分けられます。図5 に概要を示します。


図5 FT図に用いる主な記号

2.4.3 FTAの実施事例

FTAの実施事例として、給水システムの能力喪失についてのFT図を示します(図6)。

図6 FTAの事例

 

 

参考資料
FMEA_FTAの活用   塩見弘他 日科技連信頼性工学シリーズVol7   日科技連 1983年
FMEAの基礎 -故障モード影響解析-   R. E. Mcdermott et al.  日本規格協会 2003年
信頼性工学入門   真壁肇  日本規格協会 1985年
FTA/FMEA再入門の基礎知識2   柴田義文   イプロス 2016年

引用図表
図1 デザインレビュー実施フロー(例)  ORIGINAL
図2 FMEAとFTAとの相補関係   参考:FTA/FMEA再入門の基礎知識2
表3 FMEA,FTAの特徴   ORIGINAL
図4 工程FMEAの事例   FMEAの基礎 -故障モード影響解析-
図5 FT図に用いる主な記号   ORIGINAL
図6 FTAの事例   FMEA_FTAの活用

ORG:2022/10/20