信頼性工学

信頼性工学(reliability engineering)

 

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0. はじめに

0.1信頼性工学の歴史

信頼性の研究は、第二次世界大戦を契機に始まりました。そのきっかけは、ドイツでV-1ロケットの開発を行っていたロベルト・ルッサー(Robert Lusser)が、ロケットの信頼度を予測したのが始まりとされています。彼は戦後、V-2ロケットの開発者のフォン・ブラウン(Wernher Magnus Maximilian Freiherr von Braun)と共にアメリカに渡り、アポロ計画に参画しました。ちなみにルッサーはフォン・ブラウンとは反りが合わず、後年西ドイツに戻り、アメリカからからライセンス供与を受けた戦闘機の生産に関与した後、スキーのビンディングの開発を行いました。

アメリカでは、やはり第二次世界大戦末期に、米軍のレーダーに用いられていた真空管の故障が頻発して、過半数が常時使用不可能となっていたことより、高信頼性の真空管の研究が始まり、これがアメリカでの信頼性の研究の端緒になりました。その後1954年に発生した、イギリスの世界最初のジェット旅客機であるコメットの空中分解事故の原因が疲労破壊であり信頼性設計ができていなかったことにより発生したことが報告され、1960年前後くらいから信頼性の重要性が認知されるようになりました。

日本では、1960年代になりJRの新幹線や、旧電電公社の自動交換機の開発などに導入され、1970年代になると、自動車や電気製品などの一般商品にまで信頼性の対象が広がり実用化されるようになりました。

図1 V-1ロケット  出典:Wikipedia         

図2コメット  出典:Wikipedia

 

以下に、20世紀の信頼性工学のトピックスを示します。

・1940~45:ドイツでV-1ロケットの信頼性を75%と予測する。

 ・1943:アメリカに、VTDC(Vacuum Tube Development Committee)が設立され、高信頼性真空管の研究が始まる。

 ・1950:アメリカ国防省が電子装置の信頼性に関する委員会を設置し、1952年に米軍電子機器信頼性顧問団(AGREE;Advisory Group on Reliability of Electronic Equipment)に改称されて、研究が進められる。

 ・1954:11月ニューヨークで第1回の信頼性と品質管理シンポジウム(National Symposium on Reliability and Quality Control)が開催される。

 ・1955:日科技連に、信頼性研究委員会が設立される。

 ・1957;アメリカ国防省、第1回のAGREE Reportを公表する。

 ・1962:アメリカのシカゴで、第1回信頼性・整備性会議,および電子機器の故障シンポジウムが開催される。

 ・1966:アメリカで、自動車のリコール制度が制定される。

 ・1969:アポロ11号、人類初の月面着陸に成功する。

 ・1969:JIS C5003_電子部品の故障率試験法 が制定される。

 ・1970:JIS Z8115_信頼性用語 が制定される。

 ・1995:日本で、製造物責任法(PL法)が制定される。

 

 

0.2品質保証における信頼性の役割

品質保証の役割は、製品・サービスのライフサイクルにわたっての保証ということになりますが、特に留意すべき点として以下の3点が考えられます。

(1)源流管理を主体とした品質保証
(2)魅力的品質を目ざした品質保証
(3)コストと納期とがバランスされた品質保証

これらについて、少し考えてみましょう。

 

(1)源流管理を主体とした品質保証

品質保証として考えるとき、クレームが発生した際に、それを処理して顧客に迷惑をかけないというのでは、大分後手に回った方策になってしまいます。クレームを発生せないように、生産段階で欠陥の防止を進めなければなりません。しかし本来は、より源流にさかのぼって、企画開発や設計の段階で、欠陥を防止する方策が十分に考慮されていることが、もっと重要なことといえるでしょう。例えばこのときに、FTAやFMEAなどの信頼性手法を実施しておく必要があります。また、設計審査(デザイン・レビュー)が正しく実施されていることは言うまでもありません。

生産または生産準備の際に、工程FMEA(P-FMEA)を実施して、工程上の問題点や作業実施の際に管理すべき項目の洗い出しを行うことが推奨されます(IATF16949では必須)が、これらも源流管理になると考えらえます。これらの信頼性手法をあらかじめ行うことにより、クレームなどが発生した場合の、再発防止や未然防止の活動につなげることができます。

 

(2)魅力的品質を目ざした品質保証

品質保証における品質としては、「当たり前品質」と「魅力的品質」が考えられます。

当たり前品質は言わずもがなですが、魅力的品質については、顧客のニーズが多様化した現在において重要な品質要素となります。しかし、魅力的品質の追求は、この裏付けとなる新しい技術の取り込みが必要となります。場合によっては、これがネック技術となります。この技術が完成するか否かに、信頼性工学は裏方として、大きな役割を果たしています。

例えば、新しい技術により接着剤が開発されたとしましょう。このときには、当然この接着剤の耐久性が問題となります。もし経時変化によって、はく離現象が生ずる可能性があれば、この現象の故障解析を確立しておく必要があります。故障解析により、はく離現象の原因を見出し、対策を行うことが必要です。

 

(3)コストと納期とがバランスされた品質保証

一般に、信頼性を高めればコストは上昇し、開発期間は長くなると考えられます。これに対して、もし開発チームに信頼性を見極める眼力があれば、開発チームはコスト低減又は軽量化のために材料変更を行った際に、その新規の材料に信頼性上問題があるか否かを正しく判断することができるであろうと推定されます。一方、開発チームが信頼性に精通していなければ、積極的に新材料への取組みを行うことが少ないか、あるいは積極的に材料変更した結果、信頼性上の問題を提起することになる可能性が高いと考えられます。

このような考え方に従えば、コストと信頼性は相反関係にあるという考えより、相補関係にあるという見方に立つ方が正しいといえます。

納期についていえば、企画開発や設計の各ステップにおいて、信頼性上の対策が妥当であれば、開発の後戻りが少なくなってそれだけ順調に仕事を進めることが可能になるでしょう。また、重要な新システムや新部品などは、事前に検討して、これらを取り上げて先行して信頼性試験にかけることができます。これも納期を短縮できる方法になります。

 

このように、一般にコストと納期とは、信頼性と対立するものではなく、対立しないような信頼性管理が、品質保証で要求されていると考えられます。

 

1. 信頼性工学の基本

1.1 信頼性の定義

信頼性とは、「アイテムが,与えられた条件の下で,与えられた期間,故障せずに,要求どおりに遂行できる能力。」(JIS Z8115-2019:ディペンダビリティ(総合信頼性)用語)と定義されます。つまり故障や不具合の起きにくさを示したものと考えれば良いでしょう。 

また、似たタームとして、信頼度があります。信頼度の定義は、「与えられた条件の下で,時間区間(t1, t2)に対して,要求どおりに機能を遂行できる確率。」(JIS Z8115-2019:ディペンダビリティ(総合信頼性)用語)となります。信頼性と比較してより定量的な数値を示す場合に使われるようです。何れも英語では、”Reliability” です。

 

 

1.2 信頼性の3大要素  

信頼性には3つの基本的な要素があります。

(1)耐久性:故障が少ないこと。寿命が長いこと。
(2)保全性:修理が容易にできること。
(3)設計信頼性:信頼性を確保するための設計技術。

これらについて、もう少し詳しくみてみましょう。

 

(1)耐久性

耐久性は、信頼性の最も基本となる要素と考えられます。長持ちしなければ、どんなに使いやすくて、機能的にも優れていたとしても、基本的な目的は達成できません。ただし、ここで長持ちとは、いたずらに長くというのではなく、その製品に要求される使用時間内は十分に機能を発揮し得る可能性をいいます。

事例としてよく引き合いに出されるのが「魔法の三輪馬車」です。「魔法の三輪馬車」とは、シンデレラが乗ったカボチャの馬車のように、馬車の使用期間が3年ならば、ちょうど3年間は無事故で使用でき、3年を経過するととたんに、馬車は分解して消えてしまうものをいいます。これなら馬車の信頼度は100 %になります。

このような観点から、耐久性を示す最も基本的なものとして、次の信頼度(reliability)があります。

定義式は次式で示されます。これを信頼度関数といいます。

\( R(T) = \displaystyle \int_T^{ \infty } f(t) dt = 1 – F(T) \)

ここで、Tは要求される任務時間(故障せずに稼働する時間)であり、f(t)は寿命分布の密度関数を示します(図3)。

図3信頼度;R(t)   ORIGINAL

 

信頼度などの寿命を評価する尺度として、MTTF(平均故障寿命)やMTBF(平均故障間隔)などがありますが、これらについては2項で述べます。

 

(2)保全性

システムや製品(一般耐久消費財)について、単に耐久性のみを追求することは、コストの面から見て無意味なことが多いです。寿命が短く、故障が起こりやすくても、たとえ故障しても、それがシステムに対して致命的な影響を与えないで、直ちに修復し得る可能性のある故障ならば、システムの使用に関しては、さして障害にはならないと考えられます。つまり、耐久性が少々悪くても、すぐに修復が可能ならば、それで使用上は問題にならないことになります。

このような観点から、信頼性の第二の要素として、保全性(maintainability) を考える必要があります。保全性を考える一つの尺度として、JISでは、保全度を「規定の条件下で,規定の手順及び資源を用いて行われる,時刻t=0で始まるアイテムに対する保全作業が,規定の時間間隔(t1t2)内に終了する確率。」(JIS Z8115-2019:ディペンダビリティ(総合信頼性)用語)と定義されます。

 

しかし、故障が起こった後に早く修復できるだけでは十分な満足が得られない場合があります。それは、使用中の故障が致命的なダメージにつながる場合です。例えば,航空機のエンジンや、仕掛り在庫を少なくしたときの重要設備などで、突発故障が発生する場合がこの例に該当します。故障が起こらないように、日常の整備・点検が行われたり、場合によっては事前取替え(交換)や予防保全(preventive maintenance;PM)を合理的に実行するようにします。更に、TPM(Total Productive Maintenance;全員参加の生産保全)により、生産システム全体について保全性の維持・向上をはかることになります。

つまり、故障が少なくなるように耐久性を向上させることは、コスト的に引き合わないので、故障は多少多くても、コストと寿命は所定の最適水準の範囲になるようにして、故障の発生を事前に察知して、これに事前対策が講ぜられるような仕組みにした方が有利であると考えることになります。

例えば、航空機のエンジンはボアスコープによって、常にエンジンの内部を観察できるようにしたり、軸受の潤滑油はサンプリングによって抽出しやすくし、この油はフェログラフィなどの分析器により測定・評価して、軸受の劣化をモニターするように設計されています。

 

(3)設計信頼性

システムや製品が、どんなに耐久性や保全性に優れたものであっても、これらが故障したときに、システムや製品が致命的な欠陥を持つことにならないようにしなければなりません。また、誤操作を招きやすいものであっても困ります。従って、設計する際に信頼性を十分考慮に入れて、「フェール・セーフ(fail safe)」、「フール・プルーフ(fool proof)」、「操作性」、「人間工学的配慮」などを、設計時に織り込む必要があります。

ここで、フェール・セーフとは、一部のサブシステムにトラブルが発生してもシステム全体としては致命的な欠陥とならないような仕組みをいいます。例えば、電車のブレーキが故障した場合、ブレーキは制動する方向に作用することは、フェール・セーフの仕組みです。

また、フール・プルーフはパカヨケともいわれるもので、誤動作を防止するからくりをいいます。自動車は必ずブレーキを踏んだ状態で無いとエンジンが始動しないなどは、フール・プルフにあたります。ちなみに、日本では、バカヨケというタームはあまり使われず、ポカヨケという方が多いようです。これは、トヨタ生産方式のシングル段取りを指導した新郷重夫氏が、某工場で改善指導をしているときに、バカヨケという言葉を聞いた女性従業員が、自分が馬鹿だと言われたのと誤解して泣きだしそうになったので、とっさにポカミスと言い換えて、それを防ぐという意味でポカヨケと命名されたことに始まるそうです。

さらに、操作性や人間工学的配慮に関するものとしては、図4 、図5 、図6 が身近な例として挙げられます。このように、設計信頼性の要素は、非常に現実的であるとともにシステムの誤操作などを防止する基本的なものとなっています。

図4アナログ指示器の例  出典:人間工学の指針

 図5 ガス栓の締忘れ防止対策  出典:人間工学の指針

 図6 時計部:デジタル表示、ラジオ部:アナログ表示  出典:人間工学の指針

 

2. 信頼性評価の基本

2.1故障の分類(バスタブ曲線)

部品や材料のように比較的故障の起こり方が単純なものと、多くの構成要素からなる複雑なシステムに分けて、故障の出方が時間とともにどのように変化していくかを調べてみましょう。故障の出方は、故障率(人間でいえば死亡率)の時間的変化をみると、理解しやすいです。

 

(1)簡単な構造の部品や材料の故障率の変化

簡単な構造の部品や材料の場合の故障率の時間的変化は、次に示す3つのパターンに分類できます。それぞれ図7 に示します。

① 初期故障型(DFR型;Decreasing Failure Rate):故障率が時間の経過とともに減少

② 偶発故障型(CFR型;Constant Failure Rate):故障率が時間の経過にかかわらず一定

③ 摩耗故障型(IFR型;Increasing Failure Rate):故障率が時間の経過とともに増加

 

図7 故障率の基本的なパターン   ORIGINAL

 

① 初期故障型(DFR型)

設計や製造上の問題などのため、初期に故障率が高く、時間の経過とともに、これらの欠陥を持ったものが除去されて、比較的故障率の低いものが残るときにみられるパターンです。

例えば、良いロットと悪いロットが混在している場合には、初期故障型(DFR型)の寿命分布になることがあります。初期故障型の故障率のパターンを持つものとしては、LSI等の電子部品が多く、実際の使用に先だってバーンインなどにより、スクリーニングを行って、初期の高い故障率のものを除いて、故障率の低い良品だけを選んで使用することが良く行われています。

 

② 偶発故障型(CFR型)

偶発故障型は、時間によらず故障率が一定で、その故障は偶発的であるという特徴を持っています。故障率がCFR型であることは、寿命分布が指数分布であることを示しています。

偶発故障型は、システムや製品の運用状態が安定している時期にあらわれます。さらに故障率を下げる様な対策を取ることは難しいといえます。

 

③ 摩耗故障型(IFR型)

摩耗故障型は、故障率が時間の経過とともに上昇するもので、転がり軸受などの機械部品の摩耗や劣化による故障によくみられます。従って、摩耗や劣化を事前に予測して故障が起こる前に交換すれば、未然に故障を防止することができます。これが予防保全(PM)の考え方になります。

 

 

(2)多くの構成要素からなる複雑なシステム

単純な部品や簡単なシステムの故障パターンは、(1)に示した3つの故障パターンに分類できることが多いですが、多くの構成要素からなる複雑なシステムの故障パターンについて考えてみましょう。

複雑なシステムの例として人間を取り上げてみましょう。人間の一生を、幼児期、壮年期、および老年期の3つの段階に分けてみましょう。幼児期は、生まれてすぐで体力もなく、病気にもかかりやすく死亡率は高めになります。これを過ぎて、小学生から中高年になるまでの期間は、体力もあり病気にもかかりにくくなり、病死よりも事故死が多くなり、脂肪率も低下して低く安定しています。さらに年齢を重ねて、老年期になると加齢とともに体力が低下し、各臓器の老化により死亡率が徐々に大きくなる傾向が認められます。

この死亡率を故障率に置き換えて、システムの故障率の時間的な変化を図示したものが、図8です。この曲線は、西洋の浴槽に似ているのでバスタブ曲線(bath-tub curve)と呼ばれます。

図8複雑なシステムの故障率曲線(バスタブ曲線)   ORIGINAL

 

① 初期故障期

期間Ⅰは初期故障期と呼ばれ、この期間には設計ミス、製造工程の潜在的欠陥などがあらわれます。従って、早急に使用に先立ち、いろいろな欠陥を発見し除去する必要があります。このためには、デバギング(debugging)、バーンイン(burn-in)などを行って、スクリーニングをする必要があります。この期間の故障は初期故障と呼ばれます。

 

② 偶発故障期

初期故障期を過ぎると、通常はかなり長時間にわたって故障率が一定の期間が続きます。この期間Ⅱは偶発故障期と呼ばれます。故障率が一定であることは、故障が偶発的に生じることを意味していますので、この期間における故障は、事前に予知することはできません。逆にいえば、システムや製品の故障率が一番低く安定している働きざかりの時期になります。従って、この期間の長さを耐用寿命(または、有効寿命)と呼んでいます。この期間における故障は偶発故障と呼ばれます。

 

③ 摩耗故障期

偶発故障期の後には、故障率が時間とともに単調に増加する期間が続きます。この期間Ⅲは摩耗故障期と呼ばれ、摩耗や劣化などによって次第に寿命が尽きていく期間になります。この種の故障は、事前に予測することができるので、事前交換などの予防保全を行って故障率を下げることが可能です。この期間の故障は摩耗故障と呼ばれます。

 

このようにシステムが初期故障期、偶発故障期、摩耗故障期のどの期間にあるかを知ることは、故障率を低下させて信頼性を向上させる対策をとるだけでなく、故障解析の立場からも重要です。故障解析では、故障モードが一つの重要な要素となりますが、これは初期故障、偶発故障、摩耗故障によって異なる場合が多いです。従って、発生した故障が3つのどのタイプであるかを知ることによって、考えられる故障モードを絞ることができ故障原因の追求が容易になります。

例えば、Oリングで初期故障が多発している場合には、設計・製造ミスなどによる溝形状不良などが原因であることが多く、摩耗故障の場合にはOリングの損耗によることが多いなど、故障のパターンによって故障原因は異なります。

 

 

2.2故障率

2.1項の、バスタブ曲線(寿命分布)は、縦軸が故障率で示されています。この故障率は、「非修理アイテムが,時刻0から動作を開始して時刻tまで故障が発生していない場合において,次の時間区間(t, t+Δt)に故障が起こるときの条件付き確率を区間幅Δtで除した値で,Δtを限りなくゼロに近付けたときの極限値。」(JIS Z8115-2019:ディペンダビリティ(総合信頼性)用語)と定義されます。これを図に示すと、図9 のようになります。

図9残存数と試験時間    ORIGINAL

 

図9 から、時刻tの時点での故障率\( ( \lambda_{ t } ) \)

\( \lambda_{ t } = \displaystyle \frac{ f }{ N } \cdot \displaystyle \frac{ 1 }{ \Delta t } \)

 

で表されます。故障率は時刻により変化すると考えられますので、一般に故障率は時間の関数になります。

初期故障期では、故障率は時間の経過とともに低下し、摩耗故障期では、上昇します。また、偶発故障期では、故障率は一定となります。偶発故障期の期間では、故障率は時間の関数として表されません。すなわち、偶発故障期の故障率λは

\( \lambda = \displaystyle \frac{ f }{ N \cdot T } または \displaystyle \frac{ f }{ T } \)

であらわされます。すなわち、

\( 故障率 = \displaystyle \frac{ 故障数 }{ 全観測動作時間 } \)

故障率の単位は、時間分の1(1/Hr)もしくはサイクル数分の1のようにあらわされます。

 

 

2.3 信頼度

先に示したように信頼度とは、「与えられた条件の下で,時間区間(t1, t2)に対して,要求どおりに機能を遂行できる確率。」(JIS Z8115-2019:ディペンダビリティ(総合信頼性)用語)と定義づけられます。信頼度は確率であり、定量値です。

今、製品が稼働してから故障するまでの日数を調査したグラフが得られたとします(図10)。製品は、全部で10個、✖は故障の発生日を示します。×までの棒の長さは日数を表します、

図10 製品の故障発生までの日数   出典参考:QC検定2級品質管理の手法50ポイント

 

時間\( t_{ 0 } \)t0における信頼度を考えてみましょう。

\( t_{ 0 } \)t0= 10とすると、残存数は7個になるので、

 信頼度 = 7/10 = 0.7 = 70%

\( t_{ 0 } \) t0= 13とすると、残存数は4個になるので、

 信頼度 = 4/10 = 0.4 = 40%

\( t_{ 0 } \)t0 = 15とすると、残存数は2個になるので、

 信頼度 = 2/10 = 0.2 = 20%

となります。

信頼度は、通常時間の経過とともに減少していきます(図11)。先に示したように、一般には信頼度関数と呼ばれ、R(t) であらわされます。

図11 信頼度の一般的なパターン   ORIGINAL

 

なお、次式で示されるF(t)

\( 1 – R(t) = F(t) \)

を不信頼度または累積故障確率といいます。

 

2.4保全性

保全とは、故障が発生した際、あるいは、発生する可能性がある場合に、修理や予防対策を取って信頼性を維持・向上する処置のことをいいます。故障が発生してからとる保全を事後保全、予防対策として行う保全を予防保全と呼んでいます。

以下に示す用語がよく用いられます。

(1)MTTF(平均寿命;Mean Time To Failures)

リレーやリミットスイッチなど修理を行わないもの(非修理アイテム)の、故障までの平均時間を示します。いわゆる平均寿命に相当します。例えばある製品のMTTFが5000時間とするとその製品が5000時間故障しない確率は50%になります。

 

(2)MTBF(平均故障間隔;Mean operating Time Between failures)

修理を行う機器システム(修理アイテム)で、故障してそれを修理してから次の故障までの平均動作時間を示します。

 

(3)MTTR(平均修復時間;Mean Time To Repair)

修理を行う機器システム(修理アイテム)で、修理に要する時間の平均を示します。

システムの運用時間は、MTBFとMTTRの和になります。

 

(4)B10ライフ

非修理系で、全体の10%が故障するまでの時間、すなわち故障確率の累積値が10%になるまでの時間をいいます。

 

 

[計算例]

(1)10個の製品の故障時間(単位;時間)が次のように与えられるとき、MTTFを求めましょう。

   故障時間データ:140, 220, 182, 195, 170, 198, 210, 203, 200, 208

-解-

  MTTF = (140+220+182+195+170+198+210+203+200+208) / 10 = 192.6(時間)

 

(2)(1)に示す製品の故障時間を、システムが故障したときの経過時間と考えたとき、MTBFを求めましょう。

  -解-
  最大値は220時間であるので、総稼働時間は220時間になります。その間に10回の故障が発生したと考えればよいので、

  MTBF = 220/10 = 22(時間)

 

 

2.5 アベイラビリティ(稼働率)

アベイラビリティは、修理を行う機器システム(修理アイテム)が、規定の時点で機能を維持している確率。あるいは、ある期間中に機能を維持する時間の割合と定義されます。修理してから次の故障までの平均動作時間を示します。具体的には、期待される期間中に、故障によってどの程度動作しない時間を要するかの比で稼働率ともいわれています。

具体的には次式で定義されます。

\( A (アベイラビリティ) = \displaystyle \frac{ MTBF }{ MTBF + MTTR } \)

 

2.6 システムの信頼度

システムがいくつかの要素で構成されている場合、構成する要素の信頼度が既知であれば,そのシステムの信頼度が求められます。 逆に、システムに期待される信頼度を、構成する要素に配分することも必要になります。

 

(1)直列系(series system)

図12 に示すように、n個の要素でシステムが構成され、どの構成要素が故障してもシステム故障となるものを直列系といいます。このように構成要素同士の機能的な関連を示す線図のことを、信頼性ブロック図といいます。

図12 直列系の信頼性ブロック図    ORIGINAL

 

構成要素ii=1,2,…,n)の信頼度をRiとすると、直列系が機能するためには全ての構成要素が機能しなければならないので、システムとしての信頼度は各構成要素の信頼度の積としてあらわされます。

\( R = R_{ 1 } \times R_{ 2 } \times \cdots \times R_{ n } \) 

 

[例題]

 信頼度が何れも0.90の構成要素を直列に10個接続した直列系の信頼度を求めましょう。

 -解-

\( R = 0.90^10 = 0.349 \)

  R = 0.9010 = 0.349

  このように、直列系の信頼度は、それぞれの構成要素の信頼度より低下するものであり、その程度はシステムの複雑さが増すほど大きくなります。

 

システムが複雑になっても、高信頼度を達成するには、どのような方策が考えられるかについて見ていきましょう。

一つは、各構成要素の信頼度を高くすることです。ただしこの場合は多くの場合、高コストになります。もう一つの方策は、同一機能を有する構成要素を複数個併用して、そのうちの一部が故障してもシステム全体の機能は維持できるような考え方を取り入れたシステム構成とする方法です。このような考え方で設計したシステムを冗長系(redundantsystem)といいます。

冗長系の代表的なものを、以下に示します。

 

(2)並列系(parallel system)

システムの構成要素が全て故障したときのみ、システムが故障したとみなされるものです。

並列系の信頼性ブロック図を、図13 に示します。

図13 並列系の信頼性ブロック図    ORIGINAL

 

システム全体の信頼度Rは、次式で示されます。

\( R = 1 – ( 1 – R_{ 1 } ) \times ( 1 – R_{ 2 } ) \times \cdots \times ( 1 – R_{ n } ) \)

[例題]

 信頼度が何れも0.90の構成要素を直列に5個接続した並列系の信頼度を求めましょう。

 

 -解-

\( R = 1 – ( 1 – 0.90)^5 = 0.99999 \)

 

並列系にすると、システムの信頼度は構成要素の信頼度より高くすることができます。従って、配分された信頼度目標を達成する一つの方法として、並列系の考え方を取り入れることができます。

 

(3)m / n冗長系(m out of n ; G system)

n個の構成要素のうちm個が正常に動作していれば、システムが正常に動作するような冗長系をm / n冗長系といいます。信頼性ブロック図は、図14に示されます。n / n冗長系は直列系で、1 / n冗長系は並列系であるので、m / n冗長系は直列系と並列系の中間に位置するものと考えられます。

図14 m /n 冗長系の信頼性ブロック図   ORIGINAL

 

  全ての構成要素の信頼度が同一でR0であれば、m / n冗長系の信頼度は、

\( R = \displaystyle \sum_{ i=m }^n \left( \begin{array}{c} n \\ i \\ \end{array} \right) { R_{ 0 }}^i { ( 1 – R_{ 0 } ) }^{ n-i } \)

  で求められます。

 

[例題]:2 / 3冗長系

 3つの構成要素のうち、2つが正常の場合、システム全体が正常である冗長系の場合、それぞれの構成要素の信頼度をRii = 1,2,3)として、1を正常、0を故障とすると、システムの信頼度はどの様に求められますか。

 

 -解-

各構成要素の状態と全体の状態との関係は、以下の表で求められます。

 従って、システムが機能する場合の信頼度の合計は、

\( R_{ 1 } R_{ 2 } + R_{ 2 } R_{ 3 } + R_{ 3 } R_{ 1 } – 2 R_{ 1 } R_{ 2 } R_{ 3 } \)

 

 となります。

 

冗長系とすることにより信頼度は向上しますが、同一機能を有するものを複数個用いることにより、コストや質量、容積などが増加するというマイナス面もあります。従って、システムの信頼度向上に際しては、冗長系にするか、それとも構成要素の信頼度を向上させるかの判断を、S(安全性)、Q(質)、C(コスト)、D(納期)などの観点から総合的に検討する必要があります。

 

3. 寿命分布

信頼性を検討する際の機器などの寿命分布は、一般に次に述べる指数分布やワイブル分布が適用されます。

 

(1)指数分布

偶発故障期においては、故障率λを一定として、信頼度関数は次式で定義されます。

\( R(t) = e^{ – \lambda t } = exp ( – \lambda t ) \)

 

(2)ワイブル分布

 ワイブル分布は、偶発故障期に限らず、初期故障型、摩耗故障型の各パターンに対応が可能な分布です。

ここで、m(>0)を形状パラメータ、η(>0) を尺度パラメータ、γを一パラメータと呼びます。

この式は、m=1のときは指数分布(偶発故障期)を、m<1のときは初期故障型を、m>1のときは摩耗故障型をあらわします。

実際の計算では、ワイブル確率紙(図15)を用いると便利です。

図15ワイブル確率紙   出典:不明

 

 

4. 製品ステージ毎に用いられる信頼性手法

製品の企画から生産以降、顧客での使用等、製品のライフサイクルにわたり、適用される信頼性手法について、表16 に示します。

表16 製品ステージ毎に用いられる信頼性手法   ORIGINAL

 

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参考文献
信頼性工学入門   真鍋肇  日本規格協会
信頼性管理   市田嵩・下平勝幸  日科技連出版社
メカトロシステムの信頼性工学   藤崎定昭  槙書店
QC検定2級品質管理の手法50ポイント   内田治  日科技連出版社
よくわかる2級QC検定合格テキスト   福井清輔  弘文社

 

引用図表
図1 V-1ロケット  出典:Wikipedia
図2コメット  出典:Wikipedia
図3信頼度;R(t)  ORIGINAL
図4アナログ指示器の例   出典:人間工学の指針
図5 ガス栓の締忘れ防止対策   出典:人間工学の指針
図6 時計部:デジタル表示、ラジオ部:アナログ表示   出典:人間工学の指針
図7 故障率の基本的なパターン   ORIGINAL
図8複雑なシステムの故障率曲線(バスタブ曲線)   ORIGINAL
図9残存数と試験時間   ORIGINAL
図10 製品の故障発生までの日数   出典参考:QC検定2級品質管理の手法50ポイント
図11 信頼度の一般的なパターン   ORIGINAL
図12 直列系の信頼性ブロック図   ORIGINAL
図13 並列系の信頼性ブロック図   ORIGINAL
図14 m /n 冗長系の信頼性ブロック図   ORIGINAL
図15ワイブル確率紙   不明
表16 製品ステージ毎に用いられる信頼性手法   ORIGINAL

 

ORG:2024/01/27